今回のMs日記は、昨年2023年8月末に竣工し9月1日に移転開院した松本耳鼻咽喉科クリニック(以下、クリニック)の紹介をさせていただきます。
大阪府池田市の幹線沿いにミニ開発された住宅地の入り口一角を敷地として、木造2階建てのクリニックが出来上がりました。東道路に面していて向かいは小学校のグラウンド、北と西は新しい住宅群に面しています。
建物2階は斜めに葺かれた赤い板金仕上げ壁で、同じ色で屋根につながっているため大きな赤い屋根に見えるインパクトある建物になりました。
外壁仕上げはエンジ色のガルバリウム鋼板の一文字葺きと杉板縦張りです。
写真下に映る土のような表情は有機アスファルト仕上げの駐車場で、木チップや樹皮を粉砕してアスファルトに混ぜた仕上げで山道のような表情かつ浸透性があります。
幹線の歩道北から見ています。エントランス階段が見えますが、左右から2本のスロープでポーチに上がることができます。先端の角が北東に向かって突き出して見えるので大きな船のように感じます。
玄関ポーチを支えている柱は8寸角の木材を加工した桜の八角柱。軒天は杉板です。
このポーチに面する壁だけが白いリシン掻き落とし仕上げで黒いクリニックの看板プレート(デザイン:松井匠)と木製傘立てが見えます。
クリニックの内部です。右手は受付カウンターで、奥に待合室がつながります。床はチーク材。柱や梁が見える真壁構造で構造材は土台以外すべて杉。兵庫県の宍粟材です。
受付や待合室は吹き抜け空間で東の高窓から採光を得ています。天井は構造材である梁(75㎜×240㎜@455)が見え、その上にJパネル(36㎜)で床をつくっています。床の上は機械室で空調システムであるOMパッシブエアコンが設置されています。
待合室の奥から入り口付近を見返します。チークの床の上に並ぶ患者さん用の待合の椅子は全てデザインが違います。患者さんによっては、すでにお気に入りの椅子があり、「どの椅子に座ろうか。」と毎回楽しみにしている方もいるそうです。
2階のメンテナンス用室内バルコニーから待合室を見下ろします。待合の椅子たちの中、受付カウンター寄りにはそら豆型のベンチがありますが、小さなお子さん連れの方のための椅子です。いずれも木工家の永田健一さん(ZOO)の仕事です。
前面道路、小学校前の歩道から見た夕景です。2階の大きな窓が見えますが、向かって左の3つの窓はクリニック待合室の吹き抜け部にあり、天井の梁やJパネルの床板が見えます。
そして向かって右の3つの窓からは、別の空間の天井が見えます。
その、別の空間とはここ。「まつくりスペース」というフリースペースです。
天井は構造材である垂木(75㎜×180㎜@455)の上に野地板としてのJパネル(36㎜)が直接屋根を形づくるこの空間は天井が高く伸びやかな空間です。
床は遮音のために2重床構成で仕上げは構造用合板に黒塗装をしています。
正面の3つの窓からは、向かいの小学校のグラウンドが見えます。4月は校庭の桜が良く見えてここからお花見をしたそうです。
この「まつくりスペース」で、7月7日-8日にはイベント「ZOOの衣・植・住」が行われました。来場者から、このスペースについての感想として「素敵な空間」「木の香りがする」など頂きましたが、「外から見てジブリの雰囲気がした。」と言われたことがとても嬉しい誉め言葉でした。町に向けて「ほほえみの表情」の建物イメージでありたいと思っているからです。親しみがある。優しさがある。それを一言で「ジブリの雰囲気」と言ってくださったのだと過大解釈している次第です。
(三澤文子)
写真:畑拓