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わせ

Ms ARCHITECTSエムズ建築設計事務所

エムズ日記BLOG

2024.08.10

つながりを育む「広縁と濡縁」~宍粟わかば~

皆さま、こんにちは。今週のMs日記は上野が担当いたします。

先日、こども園「宍粟わかば」の1年点検があり、久しぶりに宍粟市を訪れました。約半日ほどかけて点検を行い、不具合がみられる箇所、改良したい箇所などの聞き取りを行いました。園長先生のお話をじっくり伺い、こども達が安心して生活する様子を拝見し、とても嬉しく感じると共に、学ぶことが多い一日となりました。

また、改めて今回の計画を振り返るよい機会にもなり、新しい園舎のなかで、特に「広縁(ひろえん)と濡縁(ぬれえん)」の計画がよかったなと感じました。そこで、今回のMs日記では、「広縁と濡縁」にポイントを絞って、その魅力をお伝えできればと思います。

※畑拓さん撮影の写真です

広縁とは、文字通り巾の広い「縁側」です。巾2.73メートルの縁側が建物全体をぐるりと回っています。2.73Mというのは6畳間の短手の寸法で、6畳間がず~っと続いているイメージです。上写真は、01歳児室前の広縁ですが、窓際に杉のベンチを設け、小さなお子さんが楽しそうに過ごしています。

洗面台やタオル拭きを置いても、空間は広々しています。こども達の生活をすっぽり包み込むような、包容力のある空間となりました。

写真は、ガラス張りの調理室前の様子です。広縁をさらに広げて、「溜り」の空間をつくりました。広縁はこども達にとって、ひとつの「街」であると捉え、単調にならないよう、奥行を広げたり・吹抜で高さを変化させています。八角の太い柱が並び、小さな「広場」のようなスペースとなりました。

「木造の良さ」が現れるのも広縁・濡縁の特徴です。地元の杉を用いて、柱や梁をみせています。(準耐火構造・燃えしろ設計) 広縁まわりは、すべて木製建具で製作しました。季節のよい時期は、すべて開け放って生活することも多いようです。温熱環境の面では、「バッファーゾーン」としても機能しています。

大きなガラス戸を開けると、「濡縁」に出ます。濡縁には1.5Mの深い庇がかかり、夏の日射を遮ります。床は桧のデッキで、小雨程度であれば、玄関から濡縁を通って保育室に入ることが出来ます。

濡縁には、足洗い場も設けました。夏場は特に裸足で生活することが多く、ベージュ色の塗り床は、白モルタルに砂を配合して、夏の強い日射でも熱くなり過ぎないように配慮しています。

さて、夕方になると、お父さん・お母さんのお迎えの準備のため、こども達の荷物がずらっと並びます。夕方以降の風景がとても愛おしく、園長先生も「大好きな時間です」と仰っていました。(写真右手が中川園長先生です)

こども達にとって、お父さん・お母さんのお迎えの時間は特別なもの。広縁・濡縁は、大切な親子の関係を育む場ともなります。

保育士とお父さん・お母さんの会話もこの場所で。大人にとっても、心地よい場所をつくることができました。

日没になると、暖かい灯りが入ります。

広縁と濡縁。内と外をつなぎ、人と人をつなぐ場として、「宍粟わかば」の大切な空間となっています。

 上野耕市