Ms日記をご覧の皆さま、こんにちは。冬が近づくにつれて空気も澄み、夜空を見上げると星がとってもきれいに見えます。寒いのは苦手ですが、星がきれいに見えるこの季節は割と好きです。12月に入り、千里事務所では薪ストーブをつけて暖を取っていますが、みなさまはいかがお過ごしでしょうか。
さて、今週のエムズ日記では11月末に竣工したヤマモミジの家の和室の天井についてご紹介します。写真の奥に見える和室が今回増築した和室、手前の和室が2011年改修時の和室です。
今回増築した和室の天井ですが、棟梁の入江さんの工夫と苦心のもとに成り立つ“いい仕事”がたくさん詰まっているので記録に残したいという思いもあり、この日記に記します。
天井板は杉の柾目の板を使います。柾目の板は、幅の広いものはなかなか貴重であまり手に入らないため、幅150㎜の板を2枚剥いで、幅300mmの板にします。
この板は、厚さが7mmほどしかない薄い板ですが、その薄い板を剥ぐために、まず、その道具から入江さんが造ります。水平に剥ぐために縦にも横にも何本も木を噛ませてそれをクランプ(赤い取っ手がついているもの)で固定します。
しっかりとくっつくように1cm幅分くらいは厚みを3mmほどにそれぞれを削って写真のように合わせます。上部だけ合わせたところがピタッと合っていないのは室内側がピッタリと合わさるように意図的に1mmほど離しています。接着剤はボンドを使いますが、湿度によって板が伸び縮みした時に割れることのないように、数か所だけ付けます。
そして2枚剥ぎできた1枚の板の室内側を浮造り器という道具を使って浮造り仕上げにします。「浮造り」は、柔らかい夏目の部分を削って仕上げます。そうすることで硬く削られない冬目と、削られた夏目とで、板に凹凸ができ、そして木 目の色もしっかりと見えるように なるため、上品な仕上がりになります。
こうしてできた20枚の板を部屋一面に並べて、どの板をどの天井の位置に持ってくるかを検討します。赤みの強い板、しらたの板、赤みとしらたが混じっている板、いろいろな顔があるので1枚ずつ並べてみては検討します。
そして今度はこの竿の上に板を載せていきます。この竿もとても小さく板を載せられる幅はたったの18mmしかありません。
実際に加工した竿の写真です。幅が広いところが18mm、幅が狭いところが9mmです。一般的な竿縁天井の竿の大きさは幅の広いところで27〜30mmですから今回の竿はとっても細いのです。
写真のように18mmの幅の中に7mmずつ天井板をそれぞれのせます。そして、2枚の板の上に少し厚めの下地材を載せます。7mmずつ乗せた板の残った4mmの隙間をめがけてビスを打ち、下地材と竿を留め付けます。ここでも板の収縮による割れを懸念して決して板にビスを打つことはせず、板が自由に収縮できるようにしています。
この和室は、天井から屋根までの高さがあまりなく、手だけを伸ばしてビスを打つ必要があり、かなりの精度が求められます。
下から見ると細い竿が真っ直ぐに通り、きれいな柾目の板と相まってシャープにスッキリと見える竿縁天井です。竿と竿との間の板が実は2枚の板からできていることも天井裏で先述のような細かい仕事があることを微塵も思わせません。
引き渡し直前の日の夜、ヤマモミジの家の工事をしみじみと思い出しながら和室の外観写真を撮りました。入江さんが和室の工事を進めていく様を見て、どのように施工するのか、どんな工夫が詰まっているのか、入江さんの“いい仕事”をたくさん見て多くのことを学びました。1室の和室の天井にこれだけの仕事が詰まっていることを、この日記でお伝え出来たこともほんの一部のことかもしれませんが、みなさんにお伝えできればと思います。
(小西)