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わせ

Ms ARCHITECTSエムズ建築設計事務所

エムズ日記BLOG

2025.08.09

胡桃山荘のおもいで~2025年8月

2012年に完成した胡桃山荘。設計は三澤康彦さんです。

2010年に完成した長野県上伊那郡箕輪町の「北沢建築工場」の隣に建っています。当時、私が担当した北沢建築工場の現場に通っていた際、真夏もエアコンなしで過ごしている箕輪町の方々の生活を目のあたりにして、「北沢建築さんの隣の敷地に別荘なんていいんじゃない?」と冗談半分に言った会話が本当の話になってしまいました。かねてから「別荘持ちたい病」であった康彦さんが、この敷地を購入し胡桃山荘ができあがったのです。敷地内には大木があり、その1本が、胡桃の木。川を隔てたお隣の北沢建築さんへは、小さな橋が架かっていて、その端の脇にある胡桃の大木から命名しました。

完成したその年、北沢建築の会長が植えてくれた樹木。爽やかなすがたでした。北沢建築の会長・北澤昌美さんは三澤康彦さんが亡くなった4年後の2021年にお亡くなりになりました。

この写真はある日の胡桃山荘室内です。窓を開け放して、デッキの向こうの草原と、遠くに大きな木が見えます。その大木がおおよそ敷地境界あたりに立っているのです。川に囲まれたこの敷地は本当に素晴らしく、遠く集落がみえることで安心感が持て、集落や地形や草や木々が総合して何とも言えずいい風景なのです。

この写真は、Msの本『「木の住まい」をデザインするー三澤康彦の仕事』の表紙の写真になりました。表紙にするならばプロカメラマンが撮った写真を使うのでしょうが、この写真を編集の真鍋弘さんが選んでくれました。誰かがそこにいるような気配を感じる写真です。

シンクのあるこのキッチンテーブルはチークの幅はぎ材です。キッチンの床は150㎜下がっているので、キッチンテーブルは座面の低い「トヨさんの椅子」を合わせて、のんびりスケッチをしている途中です。この頃、北澤会長が植えてくれたデッキ近くの樹木は、まだまだ可憐ですね。

夜になれば必ずワイン。信州ワインのファンになり、特にアルプスワインの赤がお気に入り。手前、北澤さん(北沢建築社長)と薪ストーブ横の佐治さん(現在、中島あゆみさん)と、話は尽きません。

それから時が過ぎて、20253月。三澤康彦さんには会ったことがない女の子がいます。窓の外は、まだ寒い3月中旬、デッキの向こうに葉を落とした木々が見えますが、ずいぶん幹も大きくなっていますね。

そして、2025725日。大阪は猛暑の日でしたが、胡桃山荘はエアコンなしの爽やかさです。窓を開けると涼しく心地よい風が入ってきます。デッキの向こうの樹木はたくさんの葉っぱをつけて日差しを遮ってくれ、デッキは木漏れ日で居心地がよさそうです。こんな涼しい風はこの季節、最高の贈り物です。

2階にいくために階段を上がる途中から南窓の向こうの樹木の緑が目に飛び込んできます。この窓の窓台がベンチになっているので、外に足を出して座れば梢の葉っぱに触れるくらい。たくさんの葉っぱが室内をのぞいているようです。北澤会長が植えてくれた樹木がこんなに成長したのですね。

胡桃山荘誕生から13年。三澤康彦さんが大好きだったこの胡桃山荘は、新しい持ち主に引き継がれます。私たちの信頼する友人で三澤さんの思いも託せる人たちなので安心です。

胡桃山荘が、いつまでも長生きしてみんなに愛され続けることを、こころより願っています。

三澤文子