Ms日記をご覧の皆さま、こんにちは。今回は上野が担当です。桜の開花のニュースがちらほら聞かれる3月後半、この連休は外出される方も多いのではないでしょうか。
本日は趣向を変えて、「木材のミニ知識」をテーマに取り上げたいと思います。Msで無類の木材好き!といえば三澤康彦さん。「山のこと、木のこと」を嬉々として話す姿が、皆さんの目にも焼き付いているのではないでしょうか。
「山のこと、木のこと」は、実は設計者のなかでも知識があるのはごく少数です。それは、おそらく大学教育(建築学科)のなかで教えられていないことが大きいように思いますが、自分自身のことを思い返してみると、木造を学びはじめた頃に三澤さんや先輩から「山のこと、木のこと」を教えてもらい、とても新鮮なおどろきや発見がありました。
最近、改めて「山のこと、木のこと」は面白い!と思うことが多く、少しでもそれを伝えていきたいなと感じています。皆さまにもぜひ、ご一読いただければ嬉しいです。
1回目は「木材はなぜ割れるのか?」がテーマです。最近、ある新築現場で、「木材の表面が割れているけど、なぜですか?(大丈夫ですか?)」と質問される機会があり、ここから話をはじめたいと思います。

そもそもですが、建築用材としての木材は、山で育ちます。この時点では建築(工学部系)ではなく、林業(農学部系)の分野であることは注目に値します。“生きている”樹木を、木材として活用することこそ、コンクリート造や鉄骨造との大きな違いといえるでしょう。

写真は、桧の丸太で、製材所で樹皮をむいたところです。直径は25cm~30cmほどある立派な丸太です。さて、ここで問題です。
『この丸太を輪切りにして、自然乾燥すると、どのように割れるでしょうか?』

答えは、このように縦方向に、バチっと大きな割れが入ります。もちろん、人為的に引き割ったわけではありません! 乾燥により自然に入った割れなのです。これほど大きな割れが入ることが、僕にはとても不思議に感じられました。ちなみに、木材の中心部分を「樹心(じゅしん)」といい、樹心をもつ“大きな材”ほど、よく割れる傾向にあります。

半分冗談ですみません・・。干し柿は乾燥すると、小さくしぼみますが(シワシワになりますが)、割れるわけではありません。ダイコンやニンジンといった、お野菜も同じです。

なぜ、木材には割れが多く入るのか? 木造を学び始めた頃、このことが気になって、30本ほどの柱を用いて木材乾燥の実験を行ったことがあります。120mm角の桧の柱(樹心を持つ、「心持ち材」)を自然乾燥させたところ、すべての柱が割れました。(岐阜県美濃市にある「森林文化アカデミー」在学時に行った実験)

木材は「乾燥によって割れる」とよくいわれますが、この答えは不十分なものです。木材には「繊維方向、半径方向、接線方向」の3つの方向性があること、これらの収縮率の違うことがポイントです。右の表は、木材の含水率と収縮率の関係を示したグラフですが、乾燥に伴い含水率が下がると、接線方向の収縮率が大きな値になっているのが分かります。この収縮率の差によって、木材に割れが発生するのです。
『木材には「収縮の異方性」があるため、乾燥によって割れが入る』と答えられたら、パーフェクトです!

製材所や大工さんにヒアリングしても「どこから割れるかは誰にもわからない」といわれます。日本では伝統的な建築物において、あらかじめ材の中央を人為的に引き割る、「背割り(せわり)」の技術が発達しました。1面に背割りをいれることで、他の3面に割れが入ることを防ぐことができるのです。

写真は、東大寺(二月堂)の回廊ですが、柱に背割りが入っています。このような配慮は日本特有のものだと思いますが、現代でも、4面が化粧になる柱など、大工さんに背割りを入れてもらうことがよくあります。

心持ち構造材は、すべての材に割れが入ります。また、背割りを入れても入れなくても、割れ方は同じようなものであったことも興味深いところです。これらの表面割れは構造上の欠陥ではないことがわかっています。

一方で、杉の割れ方は、桧とは少し異なります。桧が1面に大きく割れが入るのに対して、杉は複数の面で小さな割れがたくさん入りました。 この要因の考察は難しく、顕微鏡レベル(生物遺伝子的)の話になるため、わたしの手に余りますが、杉の初期含水率が桧にくらべてかなり高いことも要因の一つではないかと推測してます。<含水率に関しては、また、次回以降に取り上げたいなと思います> いずれにせよ、桧と杉で、木材の割れ方に違いがあるということは間違いなさそうです。

杉は特に乾燥が難しいといわれています。Msでは「木配り」を行い、節や割れの具合をみて、壁のなかに隠れるよう工夫していますが、完成後も、細かい割れが入ることがあります。写真は、築41年のMs三澤邸ですが、杉の梁に細かい割れが入っていることがわかります。
木材の知識を学ぶにつれて、このような割れも当たり前のように感じられ、「自然な姿」として寛容に受け入れられるようになりました。また次回は、別のテーマでお送りしたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
上野耕市



