Ms日記をご覧の皆さま、こんにちは。今週のMs日記は上野が担当いたします。
大阪では関西万博がはじまり、季節もよいこの時期は観光シーズンでもあります。ゴールデンウィークは皆さま各地へお出かけになったのではないでしょうか。
最近、私が担当させて頂く仕事では、大阪を離れて、日本各地を訪れることが多くあります。特に、今年は1月、3月、4月と連続して調査の仕事があり、ゆうに100年を超える社寺建築や豪商のお屋敷と出会いがありました。
以前はどちらかというと、建築雑誌に載るような「新しい建築」に興味がありましたが、最近は自分でも不思議なくらい「古い木造建築」に魅せられています。
ちょうど昨日は、MOKスクール2025の初回講義があり、「数寄屋」をテーマに中野克彦さん(工人堂)、「宮大工」をテーマに藤田大さん(淡路工舎)が講演されました。どちらの講演もとても興味深く、感じ入るものがありました。数寄屋や社寺建築はその格式の高さゆえ、少し近寄りづらいものがありましたが、最近は、あまり難しく考えすぎずに、自分が好きなように肌で感じてみたいと思っています。
お仕事で担当させて頂いている古建築については、プロジェクトが完成した暁にご紹介することとして、本日は少し前にプライベートで訪れた奈良の木造建築をご紹介させていただきます。
奈良は美しい古建築の宝庫です。この日は、春日大社から東大寺のエリアを半日ほどかけてじっくり散策をしました。僕自身が惹かれるのは、どちらかというと「小ぶり」の小さな木造建築です。
上写真は、春日大社の参道沿いにある『着到殿』という建物ですが、プロポーションがすごく綺麗です。非対称の屋根は、杮葺きでゆるやかな曲線を描いています。
丸い柱、舟肘木(ふなひじき)による構造は明快で、シンプルでありながらも凛とした品位を醸し出しています。奇をてらわず、「素」のよさを感じさせてくれます。
次の写真は、東大寺の境内にある「校倉造(あぜくらづくり)」の蔵です。『法華堂経庫』という名前です。校倉造りは「正倉院」が有名ですが、この蔵は、すぐ目の前まで近寄ることができます。
柱を用いずに、六角形(三角形に近い)の木材を、井桁状に組んで壁をつくっています。
高床を支える「土台(土台桁)」は、横長の材を用いています。(平使いです) 現在の常識では、縦長の材を用いると思うのですが、どこか謎めいて「海を越えた」大陸の匂いも漂います。
これらの古建築から、木造建築の「素」の良さを感じつつ、同時に、クリエイティブな「先進性」も感じます。
最後に、二月堂裏手の参道沿いにある「土塀」です。瓦を練り込んでいます。言葉ではうまく現せませんが、「時の流れ」と「職人の手仕事」がそのやさしい表情に現れています。
木造建築に携わる仕事をさせていただくなかで、各地で出会う素晴らしい古建築に、じわりじわりと魅せられています。『伝統』とは、もっと『自由』に捉えてもよいのかもしれません。
上野耕市