今井連窓のいえ
昨年11月に完成した改修住宅「今井連窓のいえ」は、奈良県橿原市今井町の外周部に位置しています。2014年8月に詳細調査を行いましたので、調査から完成まで2年3か月かかりました。
もともと7軒長屋であった建物の2軒分を今回改修し2世帯住宅としています。
▲改修前
▲改修後
東側道路に面した2棟。手前南側が親世帯。北側が、依頼主の世帯になります。2棟連続した家並みの表情は、かつての町並みをなるべく復元するという「伝統的建造物群保存地区」の規制に沿うものです。
まず北棟(依頼主のお住まい)からご紹介します。
格子戸をあけて内部に入ると、「土間サロン」と名付けられた多用途のホールがあります。気兼ねなくお客様が入ってきて、多用途に使える空間です。古材はこげ茶色に見える材。今回補強のために追加した柱は弁柄で着色したうえ漆を塗りました。仕口もしっかり考えて決めた形です。
土間サロンには小さなキッチンがあり。また4畳半の和室の天井には4分3厘の吉野杉板。船底天井になっています。この和室は力強い古材の中の柔らかい空間になります。
写真正面は漆塗りの建具。さらに向こうには漆塗りのトイレがあります。
上写真左側の収納扉の漆塗りは、私もMSDスタッフと一緒に塗った建具。なかなかの艶が出ています。また、トイレの中は漆板の壁に 柿渋紙貼りの天井としました。
トイレを上質な空間にしたい。と常々思っていたことが実現できました。
土間サロンから奥に進むと1200㎜下がったリビングダイニングに入ります
もともと道路より1段下がった位置に床レベルがあったのですが、それは今井町が環濠集落であった名残。今でいう「スキップフロア」だったのです。また、今回道路から奥(西)の建物全体のおよそ半分は、解体したうえで増築しています。
そんなことで、ダイニングテーブルの向こうには、一段上がった土間サロンが見通せます。ベンチソファーの上の窓のように見える開口部は、実は和室の地窓になっています。
<和室からリビングダイニングを覗く>
テーブル周りは、TV台や階段下収納、そしてベンチソファーがコンパクトに取り囲み、とても機能的。奥まったベンチソファーは、くつろげる場所になるかと思います。
ダイニングリビングはキッチンと連続したワンルーム。写真上部には、お立ち台のように見える中2階の「勉強室」につながります。トップライトで明るく、リビングの気配を感じことができる勉強室です。
大きな空間に母屋を支える5m材の八角柱はクリ材。MOKで長年寝かしてあった乾燥材です。
リビングにつながる4畳半ほどの勉強室は、家族みんなのための部屋。当面は受験を控えた息子さんが長時間使用することになるのでしょう。
家族の気配がする場所での勉強は集中力が付くと聞きます。きっと志望校合格ですね。
さて、ご両親のお住まいもご紹介します。
やはり道路側は土間の空間。ご近所のお友達が気兼ねなく集まることが出来ます。
土間に続く和室は、ご夫婦の寝室にもなるのですが、日中は土間と広くつながります。
ここでも、補強の新規柱はケヤキの八角柱。やはり弁柄の上に漆塗りです。また敷板はナグリの仕上げとし弁柄の上に漆塗り。材は、タモの巾はぎパネルです。
土間から奥に進み、茶の家に入ります。奥の西側は増築で、古材は見えません。
茶の間には、デイベッドがあり、お母さまに、大好きな針仕事をして頂くスペースです。
茶の間から洗面と浴室につながり、コンパクトで住みやすい動線となりました。
連子窓が連なる佇まい。
新しく建てるより難しい改修の仕事ですが、この改修工事にかかわった多くの方々と共に、このような家並みを再現できたことを嬉しく思います。
MSD三澤文子