北秋津のいえ
昨年12月、埼玉県所沢市で、改修の仕事「北秋津のいえ」が完成いたしました。2016年の1月早々に着工いたしましたので、およそ1年かかりました。毎月2回のペースで現場に通い、今は、所沢がずいぶん近くに感じられます。
この住宅の当主、Kさんは80歳半ば。打ち合わせの時から合理的かつ明快な考え方で「耐震性を上げてほしい。合わせて冬の寒さを解消してほしい。」という強いご希望を述べられていました。また、実施設計途中に、「平屋の既存建物を2階建てにしたい。」とのご希望を頂いたことで、一気に難しい改修設計になっていきました。結局、築340年ともいわれる原形の架構だけを残し、近年改修された部分は、解体し、増築することになったのです。
外観は2階を増築したことで、一新しました。下屋の屋根のかたちも整え、写真,向かって右手の、東南の角の張り出しを土間空間にして、応接室としています。ご当主のお仕事柄、使用頻度が多いようです。
土間の応接室は、正面玄関を入って右手です。勾配天井は柿渋紙貼りで、軒がかなり深く、奥が暗くなりがちなのでトップライトをつけています。さらに明るい雰囲気にと、ここだけは赤のベンチクッションです。
玄関土間から茶の間へ。改修前は、段差が高すぎて上がりにくいものでしたが、敷台を設けステップにしているので、無理なく上がることができます。敷台は栗の板にナグリ加工をしたのちに、漆を塗っています。足の裏の感触が良く、滑り止めにもなっています。
玄関左手(西)にある茶の間は、ご当主のいわば仕事部屋のようなお部屋です。一番集中して時間を過ごす部屋なのかもしれません。畳の間だったものを桧の板の間にして、テーブルも椅子も、ご当主の背丈に合わせて低いもの選んでいます。
天井は竿縁天井で、二分三厘の杉板は吉野産です。竿は少し太めにして、漆を塗りました。
座敷から茶の間を見ます。2間合わせて22帖半の広さの大広間でしたが、2部屋の境の建具の引きしろ部分を耐力壁にしたことで、完全な大広間にはなりません。ただ、これだけのつながり具合なら、問題なさそうです。
茶の間の北側から、南を見ています。古い建具は、余すことなくほとんど使いました。これら古い建具の造りが巧妙なことには、驚かされます。写真、左手の建具は、玄関ホール側は細い格子、この部屋側からは4段の引違障子が組み込まれています。写真、向かって右手、広縁側の欄間は、柿の木でつくられていて「これは貴重だ。」と建具屋さん。ただ、耐力壁になっている部分は欄間を設けることができずに、垂れ壁になっています。
広縁側には細工の見事な建具を設けています。これは北西にあるご当主の寝室にあったものですが、位置的にも人目に触れることがなかったので、この機会に表舞台にもってきています。少し晴れがましい顔をしている気がします。
改修前 改修後
広縁は、改修前は実は物置状態。何しろ寒くて、南の最高の位置なのに人が寄り付かない。
改修後はお部屋の暖かさをキープしてくれる、大切な緩衝空間として存在価値を発揮しています。
座敷の建具を開けると、広縁は光の空間。荷物置場にして殺してしまっては本当にもったいないのです。
設計途中から、2階を増築することになりましたので階段が必要です。階高も比較的高くなっていて苦心しましたが、上がりやすい階段になったかとおもいます。
階段脇の右手奥には、ご当主の寝室があります。
改修前の寝室
改修後の寝室
この2枚の写真、改修前、改修後ともほとんど同じアングルです。障子の向こうにあった西の広縁をつぶして、帆布のカーテンのあるクローゼットにしています。
改修前の写真右手、服類が掛けられた下に埋もれて、茶の間に移動された、細工の巧みな建具がひっそり身を潜めています。
寝室は和室から板の間に。ベッドを置き、落ち着いたお部屋になりました。天井は杉板張りで、天窓と埋め込みの照明が見えます。
玄関土間の正面には、この家の中心になるようなホールがあります。2階とつながる吹抜けには、薪ストーブの煙突が貫いていて、薪ストーブ正面には、漆塗りの栗八角柱があります。弁柄のこの漆の色を、ご当主は大いに気にいってくれました。
このホールの向こうには、ダイニングと、キッチンが見えます。また右手奥には土間の応接室、メイントイレがつながります。
家の中心にあるこの薪ストーブのお蔭で、ホカホカの室内。断熱性能も格段に上がったことで、当初ご希望の「暖かい家」に満足頂いています。左手に見える出入口からは洗面脱衣室へ。脱衣室も暖かい空間になりました。
ホールの奥には、メイントイレがあります。小便器がある1坪のトイレが出来ました。ここも薪ストーブの温かさが行き渡る位置にあり、奥まっていながらも、応接間からも近く、メイントイレとしては、ベストポジションだと思います。
増築をした2階です。増築なので、新築と同じ造りです。見上げればJパネルの野地板が見えます。壁は構造用面材の上に石膏ボードを張り珪藻土を塗って仕上げました。
2階の床はクリの板です。
妻面から見た外観を見ると、2階の存在がはっきりします。どうしてもスッキリしてしまい、かつての面影が亡くなってしまいましたが、みかんの木とは、相性よく馴染んだ姿に思えました。
最後に、南庭につくった外部トイレ。変形8角形のトイレです。腰までコンクリートで立ち上げて、その上は柱無しで全てJパネルでつくっています。小さくてかわいいトイレができました。
MSD三澤文子