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わせ

Ms ARCHITECTSエムズ建築設計事務所

エムズ日記BLOG

2012.12.14

岐阜市川原町の家・竣工しました。

過去に何度かご紹介させていただきました岐阜市川原町の家。このたび晴れて竣工となりました。

(昨年のセミナーの日記)

(詳細調査の日記)

(山の見学の日記)

(着工の際の日記)

 

住宅医ネットワークによる長期優良住宅先導事業「既存ドックシステム3」に基づいた改修工事を行い、100年以上前から建っていた小さな町家は長期優良住宅の性能を持つ現代の町家に再生されました。



着工前の様子。東南の角地ですが、西側には隣家が近接しています。


 

竣工後の様子です。敷地は南北に長く、東側の道路に沿うように建物は建っています。既存建物の改修に加えて、北側に増築を行いました。

今回の計画地は東に岐阜城のある金華山、北に長良川があり、岐阜市の中でも歴史と伝統のある地域です。古くからの町並みが保存されている中、今回の改修工事も町並みとの調和を重視しています。


瓦葺きの屋根、下見板張りの外壁、木製格子、木製建具など、町並みを構成する部分に新建材は使用していません。

ここは準防火地域ですが、改修前の建物の土壁を残し利用することで外壁に杉板を使用することを可能としました。

木製建具にも防火設備である雨戸を併設しています。防火雨戸にも杉板を張っています。柱面から道路境界まで約6cmしかありませんが、その中で外壁・建具枠を納めています。建具はガラス戸・格子網戸・防火雨戸と3重になっています。

 

工事中の室内の様子。西側(写真左)の壁側は半間ごとに通し柱が立っていましたが、曲がっていたり、傾いていたり、とにかく調整するのが大変でした。大工さんも相当苦労されていました。


改修後の室内です。1階正面玄関から入った部屋は工房としています。隣家が迫る西側には開口部は無く、東側に窓を設けています。天井は一部を吹抜けとしていますので、上部からも光が入り、天然光でも十分な明るさとなりました。奥にかわいい薪ストーブを置いています。

この住宅の住まい手はご主人が木工家具の先生、奥様が漆塗りの先生をそれぞれされています。工芸家夫婦の住む家ということで、住まいづくりにも大いにご参加いただきました。

 

床は杉板に漆を塗ったものです。漆の先生である奥様にしっかりと塗っていただきました。床張りを行った大工さんが若干かぶれてしまったという事件もありましたが、仕上がった床の色艶は最高です。


北側の増築スペースからも室内にアクセスできます。工房空間と住居空間を分けており、こちらは住居空間用の入口としています。下足入の建具は杉の幅ハギ板を利用した舞良戸です。


洗面台も漆を塗っていただきました。こちらは防水を考慮してコッテリ塗って漆器のような洗面台となりました。板はナラですが何の木か分からなくなりました。朱色が鮮やかできれいです。


浴室の壁も漆塗りの板です。これは3年前の森林文化アカデミーの実習で塗ったサワラの板です。(以前のMs日記でもご紹介)


2階に上がる階段板はナラの板
。こちらは木工家具の先生であるご主人が加工した板です。

 

 

DSC_3783

2階にダイニング・キッチンがあります。隣家をかわした北東の角に開口部を設けてあり、十分に明るい光が入ります。北の壁際には小上がりの畳スペースをつくり、テーブルの椅子としても使えるようにしています。畳の下は引き出し収納です。

岐阜市は提灯のシェア日本一とのこと。テーブルの上の照明はLED電球に提灯のカバーを付けたものですが、この提灯も岐阜の提灯職人さんが製作したものです。この住まいのために作った世界に一つの提灯です。

床はク リのフローリング。天井は杉の垂木を並べた上にJパネルを敷いています。部屋の中央に見えるのはナラの大黒柱です。棟木を支えています。

このナラ、実はナラ枯れという病気に感染した木でして、森の感染拡大を防ぐために伐採されたものを今回の大黒柱に利用したものです。ところどころに虫食いの跡がありましたが、立派な大黒柱となりました。先ほどの階段板やカウンターデスクなどにも同様に伐採したナラの木を使用しています。

 

改修部の2階は寝室となっています。床は杉板。既存の小屋梁はほとんどを残して利用しています。


  

改修前の工事中はこんな様子でした。梁はそのままですが、屋根の下には厚い断熱材を入れた上、天井を貼っています。

 

工房の上部の吹抜の様子です。南と東に開口部を設けていますので、かなり明るく、1階の工房へも光が入っていきます。

吹抜の奥は物置や趣味の部屋など多様に使えるようにロフトとして床を貼っています。ロフトを通じて南側のバルコニーに出ることができます。



 

南のバルコニー。玄関の屋根の上に作りました。床には桧のデッキを敷いています。

左手に金華山と岐阜城が一望できます。春には川沿いの桜が目の前に広がる最高のスペースとなるでしょう。

 

お引渡しの日に薪ストーブの火入れも行いました。薪ストーブ屋さんが丁寧に説明した後に着火。薪ストーブは伊達ではありません。小さなストーブですが、これ1台で家全体がかなり暖かくなります。これは断熱改修の賜物でしょう。



歴史ある町の歴史ある住宅に住むことはとても素敵なことですが、昔のままの建物では断熱性・気密性も悪く、寒さを我慢しながら生活しなければなりません。また、耐震設計もされてない建物も多く、地震の際の安全性が確保されないまま生活をすることになります。

古い建物を詳しく調査し、きちんと設計・工事を行うことで安全で長持ちする建物に変えることができます。また、快適でエネルギー消費の少ない生活ができ、長く住みたいと思える家とすることも住まいを長持ちさせるポイントです。古い建物を性能向上させて残すことができた今回の仕事は、住まい手さんはもちろん、川原町という地域にも貢献できたのではないかと感じています。

スタッフ 田尻