自然のものである木は１本１本違います。同じ樹種であっても産地が違えば特性も変わるし、家を建てる地域によってふさわしい木も異なる。だから私たちは１軒の家をつくるとき、まずは山に行って木を選ぶことから始めます。

各地の林業の場にその都度足を運び、設計者が木を見極めて、乾燥や製材まで管理する。これはエムズ建築設計事務所がスタートしたときから変わらず続けてきたことです。設立から40年近い年月が経ち、今では日本全国に顔のわかる林産地が増えました。時には住まい手とともに山に入り、誰がどんな思いで、どんなふうに育ってきた木がわが家の柱や梁となるのかを見てもらうこともあります。そうすることで家には物語が宿り、やがて愛着へと育っていくのです。

また、家は構造材だけではでき上がりません。板材や内装材などになるしっかりと乾燥した広葉樹の良材を常にストックしている他、木の家のデザインに合った建具や金物、照明器具、台所部品、碍子（がいし）などオリジナルの部材を開発することで、家全体のデザインの統一も図っています。

家は心安らぐ場所であると同時に、家事という仕事の場でもあります。食事の支度をしたり、洗濯をしたり、片付けものをしたり、そのほか数限りない名もなき家事のために、十分な機能性を備えていなければならないと考えます。

例えば収納。ものが多い現代の暮らしには、バックヤードとしての収納力は欠かせない機能です。動線に沿った使いやすい収納、持ち物や家具に合わせた収納にしっかりと目を向けることで、日々、特別な労力をかけなくてもすっきりと片付いた家になるプランを模索していきます。

最近の傾向として、ランドリールームを設けることも増えました。「洗う、干す、取り込む、たたむ、アイロンをかける、しまう」という一連の作業がしやすく、さらには急な雨や花粉対策にもなるサンルームのような場所です。洗濯そのものが楽しくなる、そんな快適な空間を目指しています。

設計前の打ち合わせでは20ページほどの「すまいめも」を用意し、必要事項を記入してもらうことで、持ち物の量と内容をしっかりと把握し、家具を新たに購入しなくてすむ収納計画をご提案します。

住まいの「温熱環境」と「省エネルギー」をどうするかは今や家づくりで避けては通れない問題です。

温熱環境とは、冬暖かく、夏涼しい環境を整えることですが、そのために多くのエネルギーを費やしてしまうのでは、住まい手に光熱費の負担がかかり、地球環境にとっても悪影響です。ですから、温熱環境と省エネルギーはセットとして、両立させられる住環境を実現していくことが重要です。

具体的には、断熱・気密を図って温熱性能を高めていくこと、さらには窓の設け方、太陽光の上手な生かし方といったパッシブ住宅の手法も取り入れています。

その上で、実際に暮らしてみてわかることを、１年メンテナンスの際にしっかりとチェックします。１年間の光熱費の記録を見せてもらい診断するのです。電気使用量は、現在の標準的な家の電力消費量の約半分に当たる1985年の水準に戻すことを理想にしています。そのために診断後、問題があったり、もっと下げられる要素が見つかれば、サーキュレーターの場所を検討する、風の通り道を調整するなど、改善策をご提案していきます。

メンテナンスフリーの家はありません。木の家となればなおさらで、いかに目をかけ手をかけるかで家の寿命も、住まい手の愛着も大きく変わってきます。ですから、私たち専門家によるアフターフォローと住まい手の日々のケアを手引きすることも設計者の大事な責任なのです。

エムズ建築設計事務所では、１年目に無料点検を実施。メンテナンスの他に、実際に暮らしてみてここをもっとこうしたいという生活向上のための要望にも耳を傾けます。その後も外壁などの塗装点検を中心に行う５年点検、訪問メンテナンスをする10年点検と続きます。

また、竣工時にはオリジナルの『メンテナンスブック』とメンテナンス用具を詰めた「メンテナンスBOX」をお渡しし、木の家の住まい方をお伝えしています。手をかけると愛着がわくものです。住まい手の愛着は、丈夫な構造体をもつことに劣らない、長持ちの秘訣でもあります。

事務所のある大阪以外にも、各地で事例を手がけています。全国に散らばるOB、OGやメンバーと呼ぶ設計者たちとその都度、チームを組み、その地の山に赴いて、その地の気候風土に沿った家づくりを実現しています。特に東京には分室があり、首都圏の他、関東一円での実績も多数です。