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わせ

Ms ARCHITECTSエムズ建築設計事務所

エムズ日記BLOG

2025.12.27

「蔵出し!自慢の改修作品」~ 蔵ギャラリーと茶室の建物・八白庵

Msウェブサイトはコロナ禍、大々的にリニューアルされましたが、当時私が、激務の最中であったため、掲載作品は最近の仕事を中心に少量にとどまっています。そこで私、三澤文子が担当する回は、「蔵出し!自慢の住宅作品」と題して、Ms日記にて未掲載の作品を皆様にご紹介させて頂きたいと思います。

さて、今回は2009年の3月に竣工した「八白庵」(はっぱくあん)です。

この建物は、安政8年(1859年)に現在の岐阜市で生まれ昭和8年(1933年)に亡くなられた大野定吉が設計した建物です。大野定吉は、近代日本の思想家である久松真一の実父であり、大地主であって芸術に極めて造詣のある風流人であったとのこと。その大野定吉の曾孫にあたる依頼主が、この八白庵を改修し、同じ敷地に主屋として住まいを新築することになりました。そして、その設計を私たちにご依頼いただいたのです。

主屋の北に立つ八白庵は、そもそもさらに北に立っていたのだそうです。その敷地も含めて公共建築の建設が決まったことから建物を移設することになったそうです。

移設後は長らくそのままで使われず、主屋の新築を機に改修を行なうことになりました。

改修前は劣化もあり、写真の瓦屋根の軒のラインも垂れて弓なりになっていましたが、このようにしっかりと再生されました。施工は郡上市の松下建築さんです。

主屋と八白庵にはさまれたお庭も整備されました。お庭越しに見える八白庵も素敵です。

八白庵に近づいてきました。「蔵と茶室があるって?」という疑問がだんだん解けてくるはずです。

まずは、写真右手のモルタル塗りの土間で靴を脱いで濡れ縁に上がります。この濡れ縁が蔵ギャラリーと茶室をつなぐ入り口スペースになります。

 

濡れ縁から茶室前室への入り口が見えています。

茶室前室には、正面の丸窓がありました。この建物も、主屋のお客様が宿泊されるときには使用できるようにと、障子だけの窓だったものを外側にペアガラスのFIX窓を設けています。

蔵ギャラリーの入り口です。

蔵の重厚な入り口が、見違えた蔵の内部へ誘います。

改修前はたくさんの古いモノでいっぱいだった蔵ですが、骨組みはそのままで、床を杉板に張り替え、板壁を漆喰の白い壁に変えています。埃をかぶっていた椅子やテーブルも綺麗になりました。

壁に掛かる絵画は、チェコ生まれジリ・ティレクとズデンカ・ティレセクの作品。お二人は夫妻で、現在はフランスで作家活動をされている画家です。お二人の絵画が大好きな依頼主夫妻が時間をかけて集めたものを蔵ギャラリーでは常設展示しているのです。

2階からは小屋組がしっかり見えます。蔵の小屋組はシンプルで魅力的。日本中の壊されそうな蔵を改修して再生させたいと思うほどです。

改修前は、はしごで上がっていた2階も新しく階段を設けました。一部吹き抜けもあって使いやすい素敵なギャラリーになりました。

さて、茶室の前室(1)に入り、丸窓を室内から見ています。この障子も障子紙を貼り替えただけです。

前室(2)に入ります。ここには写真右手上に見えるように、「八白庵」と書かれた書が額装され飾られています。これはこの茶室を設計し建てた大野定吉が、大徳寺昭隠禅師から「八白庵」の号を授かった。ということなのだそうです。

前室(2)の南掃き出し窓から庭を介して主屋が見えます。主屋「方形の家」については、次回私が書くMs日記にてご紹介させていただきます。

茶室は、逆勝手向切 1畳台目 中板。お手前が通常と逆になるので、とても難しいお手前になるとのことです。この茶室を設計した大野定吉が奥深い芸術家たる所以だと感じます。

床の間の前から茶道口を見ます。茶道口から前室(2)に向かうのですが、廊下途中に水屋があります。また、この写真の右端(写真には写っていませんが)に、にじり口があります。

茶室の造作など、全てほぼ既存のまま。改修後はお茶会にも幾度も使われ、私もお客様で伺ったこともあります。改修前は、荒れ果てた感じがありましたが、手を入れることでこのように素晴らしい空間がよみがえります。古い建物を改修する仕事の、これが醍醐味だと思っています。

文:三澤文子

撮影:三澤康彦