Azumi setoda・yubune竣工報告① ~木造共用棟(改修工事)~
Ms日記をご覧の皆さん、こんにちは。
今週のMs日記は、上野耕市が担当です。
本日は、この春、美しい島々が連なる瀬戸内海 “生口島(いくちじま)”にオープンした、
『Azumi setoda(アズミセトダ)』について竣工報告いたします。
Azumi(宿泊施設Azumi:22室、yubune:14室、計36室)には、
クライアントと、マスターアーキテクト(設計統括):三浦史朗氏による、
新しい感性によって描かれた、他のどこにもない、景色が広がります。
旅とは、何か。
旅館とは、何か。
対話による対話を重ねて、ひっそりと、瀬戸内の地に、誕生しました。
このプロジェクト。
私たちMsにとっても、3年以上の時間をかけて、じっくりと大切に取り組んだ想いがあります。
また、住宅医の有志メンバーによる詳細調査に始まり、
Msで培ってきた木造改修のスキル、木の設計手法を余すところなく展開しています。
皆さんにご報告できる日を迎え、とっても嬉しく思います。
木造共用棟外観 Photo Tomohiro Sakashita
設計は。
六角屋(三浦史朗氏)+Azumi setoda設計チーム。
今回のプロジェクトのために、特別に組まれたチームです。
私たちMsは、三浦史朗氏の指揮の下、2つのパートを担当させて頂きました。
① “改修設計”~築147年の豪商の屋敷を、旅館のコア(共用棟)として再生させること~
② “内装設計”~新築する客室を、無垢材を使って上質な空間に仕上げること~
⇒ 本日は、①について、ご紹介します。
Azumi setoda外観(一番奥にみえるのがS造2Fの宿泊棟) Photo Tomohiro Sakashita
Azumiのコアは、
築147年(明治7年)の豪商の屋敷、『旧堀内邸』からなります。
この『旧堀内邸』のもつ、歴史と文化、地域とのつながりを、新しい宿に生かしていくこと。
ゼロ(無)ではなく、地域に潜在するポテンシャル(有)を発見することからから、
プロジェクトがはじまりました。
鳥瞰(瀬戸田港の方面をみる、手前の大きな建物が鉄骨2Fの宿泊棟)
Azumiは、生口島「瀬戸田(せとだ)」港の入り口に建ちます。
歴史的には、港が、その町の玄関。
『旧堀内邸』は、塩づくりと、海運業で栄えた、瀬戸田を象徴する大切な場です。
鳥瞰(しおまち商店街の方面をみる)
港から、Azumiを経て、地元の「しおまち商店街」へ繋がります。
町の景観に調和するよう、ヴォリュームを抑えた”分散型の建物配置”となっています。
道を介して、3つの敷地に、6棟の建物で、施設が構成されています。
町に開くこと。
計画当初より、メンバー全体で共有してきたコンセプトです。
外観(北西角より、「しおまち商店街」方面をみる)
改修により、当時からの”町の顔”を再生しました。
1Fは黒漆喰、2Fは白漆喰の2トーン。
瓦は葺き替え、六角名栗の木柵は新しくつくり直しています。
施工は、大和建設(@福山市)。
瀬戸内エリアで、魅力的な建築をつくりつづける、ハイレベルな建築集団です。
たくさんの皆さんのご協力の下、
電柱移設、道路美装化も実現することができました。
内観(エントランス~ダイニング)Photo Tomohiro Sakashita
内観です。
元々は、玄関土間以外、床<高さ60cm>があり、畳が敷かれていました。
その床をすべて取り払い、「研ぎ出し(地元のマサ土)」で仕上げています。
土足利用です。
左官仕事は、”青色の漆喰壁”と共に、齋藤氏(齋藤左官)の手によるもの。
三浦氏のコーディネートによる、職人さんの技術が光ります。
内観(ダイニング)Photo Tomohiro Sakashita
2F床も一部を取り払い、ダイニングとして再生。
皆が感動した、「美しい桟割の障子」は、旧堀内邸の障子をそのまま活用しています。
町(通り)に面して、”食”の場があること。
求心性と、温かみのある、パブリック空間は、町の賑わいと呼応します。
とっても!大変だった、
「基礎工事」(地中にコンクリートの梁がしっかり入っています)と、
「耐震補強工事」(屋根、床、壁をしっかり補強しています)は、
また別の機会にご説明いたします。
中庭・蹴鞠垣(けまりがき)Photo Tomohiro Sakashita
施設の中心には、中庭を配置。
2層分の高さ(6M)がある、垣根がぐるりと廻ります。
プライバシーの確保と、光・風などのバッファーとなります。
この垣根。
古い文献より、『神事である、”蹴鞠(けまり)”をするための空間づくり=蹴鞠垣(けまりがき)』の構成を学び、いまに再解釈してつくられました。
Azumiを象徴する景色です。
三浦氏・外構工事担当の西之園氏(WA-SO design)・Azumi設計チームのメンバーから、
多くのことを学ばせて頂いた場所です。
離れ個室(ダイニング)Photo Tomohiro Sakashita
“既存の庭”を残した、離れの個室です。
2面に開いたガラス面と、低く抑えた床が、ゆるやかに境界をぼかします。
『治すなら、当時の姿以上の魅力を纏うよう』に設えました。
2Fラウンジ Photo Tomohiro Sakashita
2Fラウンジには、ゆったりとしたオリジナルソファを配置。
製作は、土井木工@府中市。
三浦氏が振るタクトのもと、それぞれのエキスパートが腕を振るい、空間を形づくります。
夕景 Photo Tomohiro Sakashita
そして、夕景。
宿の灯りが、繊細な格子を通じて、町(通り)をほのかに彩ります。
旅館とは、家(ホーム)である。
そして、その町の一番の誇りである。
プロジェクトを通じて、携わったすべてのメンバーで何度も確認した言葉です。
瀬戸田から。
潮目が変わり、
新しい価値観と想像力と感性で、渦を描くように、物語がスタートしました。
上野耕市
Azumi setoda公式HP
Azumi yubune公式HP
https://azumi.co/yubune/