Loading...
わせ

Ms ARCHITECTSエムズ建築設計事務所

エムズ日記BLOG

2024.09.28

丸亀の家・構造補強工事について(その2)

みなさん、こんにちは。お彼岸が過ぎて、ようやく秋がめぐって来たように感じます。今回のエムズ日記は、非常勤スタッフの鈴木が前回に引き続き、丸亀の家の構造補強工事についてお話します。

丸亀の家は、昭和3年に建てられた長屋住宅で、今年で築96年になります。住宅医スクールで学ぶ中で、耐震改修などの必要性を感じ、昨年8月から詳細調査、改修設計を経て、今年6月に着工しました。

前回のエムズ日記では、既存の骨組みを補強して、新設した基礎に載せるところまでを、お話しました。今回は基礎完成後に行った構造補強について、お話します。

(前回の日記はこちらからお読みいただけます)

今回の耐震性能向上の改修は、3つの重点を置いて進めました。

1)既存の2階床梁や床板をそのまま活かし、1階から見えるように仕上げること。

2)長屋の隣家棟との境にうだつ壁を設けて、将来隣家が切り離されても、構造上自立できるようにすること。

3)屋根の構面の補強を行い、地震や強風時の荷重に対して建物の変形を抑えるようにすること。

それではこれから3つの重点について、どのように工事が進められたか説明します。

1つ目の重点、2階の床梁や床板を活かして使う工事です。2階の床梁、床板は、昔のかまどの煙の煤で黒光りになっており、それが美しく、力強く感じたため、そのまま残し、見えるようにしたいと考えました。

しかし既存の梁は支持間隔が空き過ぎていたため、『ほ』通りに新しく受梁を通し、既存の梁を下から支える設計を行いました。さらにこの受梁を下から支える大黒柱を、『ほ』④通りの交点に立てることにしました。

2階床梁伏図

グレーに塗っている梁は既存の梁です。白色の梁は、改修で新設した受け梁です。

この写真は、大工の水田さんが関元工務店さんの加工場で、24cm角の桧の柱を八角形に加工しているところです。この柱が大黒柱になります。

この柱は、昭和3~4年に徳島の山に植えられた桧です。構造の試験体にするために取っていたもので、背割りはしておらず、木が自ら割れた背割れがありますが、よかったら使ってくださいと、TSウッドハウス協同組合の和田さんからお話をいただきました。

丸亀の家が建てられたのと同じ時期に植えられ、大切に育てられてきたこと、美しい木肌や背割れが気に入り、大黒柱にしようと決めました。

現場に搬入された大黒柱は、柱脚部を基礎に固定する溝の加工をします。基礎のコンクリートから出された鉄板に柱脚を固定します。上部には、既存の梁を支える受梁が設置され、その側面には枘と取合う溝が刻まれています。

柱を立てているところです。

柱頭の枘(ほぞ)を受梁の溝に込栓で固定したところです。

これで既存の2階の床梁の補強が出来ました。

次ぎは2つ目の重点、隣住戸との境に設けた、うだつ壁の工事について説明します。

既存の小屋組みが通っている『い』通りに隣接して、㋑通りを設定し、そこにうだつ壁を設けることになりました。これも既存の骨組みはできる限り、そのまま残し、補強のために新たに設置する壁は、寄り添うように作るという発想です。

うだつ壁の1階部分は基礎の施工前に完了していますので、これから、屋根から2階部分の施工をします。

小屋伏図

グレー網掛けしている部材は既存の部材です。㋑通りにうだつ壁を設置します。

うだつ壁の軸組図

うだつ壁の受梁や軒桁が、既存の床梁や母屋を下から支えます。

ちょうど見上げている丸太の小屋組みに隣接して新設のうだつ壁を設けます。

まず小屋裏部分の骨を組みます。既存の丸太の小屋梁はねじれていて、うだつ壁側にはみ出しています。既存の丸太の方を優先させて、新設の束を丸く削って納めます。

つぎは屋根から上に、うだつ壁を上げます。縦方向に流れる丸太の右側に隣接している新しい木肌の梁が、うだつ壁の骨組みです。その上にさらに骨組みを重ねて、屋根面より上に出します。

2階のうだつ壁の足元では、水田さんが既存の床板をめくって、受梁の上に面戸とよばれる補強材をつけています。

この後、2階に柱を立てて、㋑通りのうだつ壁の骨組みが完成しました。

この後、うだつ壁には構造用合板が張られ耐力壁の役割も果たします。うだつ壁の受梁や軒桁が既存の梁や母屋を下から支え、構造用合板や小屋組みが耐力壁となることで、将来、隣住戸が切り離されても、自立することが出来ます。

次は3つ目の重点、屋根の構面の補強工事についてです。構面とは、地震や強風時に建物の変形を抑える構造上重要な働きをします。屋根の構面は、既存の母屋の上に新設の垂木を載せてその上に、厚さ12mmの構造用合板を張って作ります。

オレンジ色で塗ったところが構造用合板です。

屋根の工事は高所作業で危険が伴うため、今回は関元工務店さんからの発案で、棟から軒先まで一体化した屋根パネルを、予め加工場で製作して、現場では、そのパネルを吊上げて、屋根に設置することになりました。

屋根パネルの製作について説明します。写真は棟から軒先までの垂木を並べているところです。

この写真は、屋根面の構面となる構造用合板を垂木に固定した後、裏返しているところです。

裏返した屋根パネルの垂木間に断熱材を隙間なく充填しました。

その断熱材を覆うように、可変調湿気密シートを張ります。その上に天井の仕上げ面となる、せっこうボードを張って、屋根パネルは完成です。

つぎは、現場で屋根パネルの設置工事を見て行きます。

屋根パネルは、天井仕上げ面になるせっこうボードの面を下側にして既存の母屋に載ります。屋根パネルは、棟から軒先まで一体に作られているため母屋の高さは屋根勾配に合わせて調整しました。飛び出ているところは削り、下がっているところには、パッキン材を挟んで調整します。

母屋の表面に木肌の新しい色が見えているところは表面を削って高さ調整したところです。母屋とトラスの接合部はねじで補強します。

現場に届いた屋根パネルは、重機で屋根まで吊上げます。

母屋の上で屋根パネルの位置決めをして、専用のねじで垂木を母屋に固定します。

屋根パネルの設置が終わりました。表面の構造用合板が屋根面の構面となります。

 

室内から屋根パネルを見上げたところです。表面のせっこうボードは天井の仕上げ材になります。せっこうボードの上にある垂木と母屋がねじで固定されています。

構造用合板を屋根全面に張ることで、屋根面が構面となり、地震や強風の力を建物が受けた時に、建物の変形を抑えます。

 以上が、構造補強の3つの重点についての工事の様子です。

今回の改修設計では、古い構造躯体を出来るだけそのまま活かして使い、補強が必要な部位は、古材を優先させて、新しい部材が寄り添って支えるようにと考えました。現場はこれから、外壁や間仕切り壁の耐力壁工事へと進みます。また構造だけではなく、断熱性能向上の改修工事も行います。

最後まで、お読みいただきありがとうございました。

鈴木康之