9月後半になり朝晩は気温が下がり過ごしやすくなってきましたが、日中はまだまだ夏の暑さを感じます。本日のMs日記は、約4年振りに訪れた「柿の木荘」についてご紹介したいと思います。
「柿の木荘」がある大阪府阪南市の尾崎町は、三澤康彦さんのふるさとです。お聞きした話では、この邸宅には三澤さんの叔父さんご一家がお住まいで、少年時代からの思い出がいっぱいつまっている大切な場所です。
また、2017年に三澤さんが急逝される直前に改修工事を行った「最後の作品」でもあります。いまは、ご親族であるご夫妻が、定期的に訪れて、庭を楽しみながら過ごしています。「柿の木荘」の由来となっている、柿の木が写真左に映っています。
改修された「サロン」の様子です。李朝風の建具や、特注製作したペンダント照明など、三澤さんの作風がよく現れた気持ちのよい空間です。わたしが入社した2016年は、ちょうど改修工事中で、緊張しながら現場に同行したことを思い出します。古い井戸の蓋になっている中央のテーブルには、三澤さん愛蔵のチークが用いられています。
コロナ禍までの間、サロン棟の奥にある蔵をみんなで大掃除し、Msの「漆工房」として活用させて頂きました。見学会やワークショップも多く開催され、スタッフは主屋に泊めて頂いたこともあり、私たちMsにとっても大切な場所になりました。
白黒のこの写真は、2021年に行った中庭にある「厠棟」のメンテナンス工事の際に撮ったものです。雨水の排水がうまく機能せず、土壁の漆喰が剥がれて、巾木の洗い出しにも浮きがみられました。
色々検討した結果、土壁と柱の足元をカットし、敷石を入れて雨水排水がうまく機能するように改修を行いました。
小さな、小さなメンテナンス工事ですが、お施主さんがとても喜んでくれました。
設計者が入り、細かいところまで気を配って図面を描くことで、愛着のある古い建物の寿命を延ばしていくことができます。「つくること」だけでなく「治すこと」の重要さは、文子さんに教えて頂いたことです。
今年は、主屋の漆喰剥離がみられたため、妻壁を塗り直しました。その他、コアー建築工房の千原さんと共に建物を点検し、どのような順番で手を入れていくか、作戦を練っているところです。
今年も変わらず、柿の木が実を付けました。
長い時間をかけて、建物を見守っていくことの大切さを噛みしめています。
上野耕市