昨年末に完成したマンションリフォーム「中京・風の舎」。
施主の加茂みどりさんは、実験集合住宅NEXT21 での居住実験を長年研究されてこられた
研究者です。そのことから今回の改修の基本方針は、加茂さんの研究成果を踏まえて組み
立てられました。
その方針の中での、第一の特徴は、京町家にある「土間・ぬれ縁」をマンション住戸に取
り入れたことです。
住戸の共用廊下側の、住戸巾いっぱいの土間と、どのマンションにもあるベランダを、よ
り室内化したぬれ縁スペースをつくり、外と内をつなぐ環境を調整する空間としました。
これが 住戸巾いっぱいの玄関土間です。写真左手真ん中くらいに、玄関扉があります。
住戸巾一杯の玄関土間。写真真ん中に見える扉は、土間の両側にある玄関クロークになり
ます。
これが、ぬれ縁です。
ぬれ縁の桧板が室内の床レベルと段差無くつながるため、上足で外に出ることが出来、室
内空間が広がると同時に、外部とのつながりが感じられる気持ちの良い空間になります。
外と内とをつなげ、このような調整空間がつくられることで、限られた窓しかないマンシ
ョンの住戸でも、3 本の風の道をつくることができました。
玄関の鉄扉を開けると、土間と玄関ホールが迎えてくれます。
本棚に囲まれた玄関ホールは、ベンチも備わってちょっとした読書コーナーです。
鉄扉の内側には、障子があります。風を通しながらも、内が見えにくくなっています。
玄関土間が、住戸巾いっぱいあることは、この写真を見ればわかります。メインの通路、(こ
こを廊下とは呼ばずにあえて図書室と読んでいますが)の右左に、入口があり、奥につな
がっている気配が感じられると思います。
これは、玄関ホールから土間を見返しています。
正面の住戸玄関は鉄扉を開けて、障子を閉めているところ。雪見障子ならぬ「風通し障子」
です。
更に奥のキッチン側から見返したところ。写真真ん中ほどにピアノも組み込まれています。
ピアノの横には水廻りに入る障子風建具があります。
ランマが無い親子建具は単に目隠し用。これも上部に風が通る工夫で、目線も通り、広が
りが感じられます。
また、狭く身体に近いこんな空間は、繊細な杉の建具やコットンのカーテンが、肌に優し
く感じます。
ぬれ縁(ベランダ)に面したキッチンとダイニング。床は厚さ30 ㎜の漆塗りの杉板です。
濡れ縁の向こうに帆布の暖簾が見えます。この暖簾によって、正面のビルの窓を隠すこと
ができました。
初めてのマンションリフォーム。住宅医スクールの小谷和也先生の講義を何回も聴講し臨
みました。それでも何回か初歩的な質問をする私に、小谷和也先生は「三澤さん本当に僕
の講義聴いていたの?!」と言って呆れていましたが。
お蔭で、防音の2 重床や、断熱方法などしっかり実践できました。今回の受賞も、住宅医
スクールのお蔭だと心より感謝しております。
最後に、今回是非実現したかった差鴨居を使った内装システムです。
1984 年(34 年前)かつて現代計画研究所にて担当した「集合住宅の木造的内装システムの
提案」 当時は実現できませんでしたが、今になって俄然このテーマに燃えています。
引き続き、「集合住宅の木造的内装システムでの改修提案」を行なっていきたいと思ってい
ます。
三澤文子