住宅竣工しました。伊丹市「素地の家」
日本のモダニズム建築100選に、工業化住宅で唯一選ばれたというセキスイハイムM1の横に、シンプルな切妻屋根の、小さな木造の住まいが完成しました。この木の家をお住まいに、セキスイハイムM1は今後、夫妻の仕事場に使われます。
もともと夫妻のご両親の住まいであった茶室をもった趣きのある木造の家が、阪神大震災で被害にあい、その年に、急に迫られつくった家を、今回取り壊して、新築することになりました。セキスイハイムM1のほうが築年数は古かったのですが、「これは残すべき。」との考えに、ご夫妻も私も、何の疑いもありませんでした。
取り壊した家に取り付いていたご両親のためのスロープをそのまま活用。60歳を過ぎたご夫妻にとって、ご両親が使われていたスロープに、必要性をかなり感じていたようでした。
南向きで、日当たりの良い敷地。庇を1.2m出して日差しをコントロールします。南のボーチも広く、さまざまに活用されることが想像されます。
軒先には、杉材で造った、よしず掛けがあります。夏はよしずと格子網戸で日射遮蔽です。
右手、大きく開いた窓は、片引きの木製建具。窓高さが床から400㎜。風通しもよさそうです。
写真左手の玄関建具も窓のような造り。日差しをたっぷり入れる取得タイプ(断熱タイプ)のlow-eガラス。そして夏は日射遮蔽の格子網戸が定番です。玄関の横には、大工さん造作のポスト、インターホン、照明。これも定番です。
150㎜×75の垂木にJパネルの野地板あらわし仕上げ。水平構面Jパネルでしっかりかためています。耐震性能をしっかりとることは、震災を経験されたご夫妻の第一の希望でした。
また、耐震性がありつつも、木の豊かな表情を楽しみたい。それも、お二人ともデザイナーのご夫妻の希望でした。特に、造形作家の奥さまの作品の色が、きっと入ってくるからと、極力、色を付けずに素材の色だけに。と強く希望されました。それで「素地の家」と名付けたわけです。
構造材は、和歌山の伸栄木材の杉。いつも吟味してくれる担当の中谷さんのお蔭で、小屋裏の見えないところまで、良材が組まれています。床は東濃ヒノキ。天井の杉と、床のヒノキ、2色の木の色が楽しめます。
小上がりになった茶室の床下には、もれなく収納が出来ています。奥行1.8mの引き出しもあります。400㎜上がった茶室は、今回、とても気持ちを込めて設計しました。
4畳半の小間。お茶会も行うとのことで、ご主人とずいぶん打合せを重ねました。杉板の竿縁天井は、従来の竿縁天井とは違い、7分板の、板の継ぎ目を竿縁で隠す方法です。さらに舟底。大工さんの渡利さんがしっかりつくってくれました。
4畳半の天井際、竿縁には廻縁が付くものですが、南側のみ 付け梁で、その他三方は構造材です。その証拠にDボルトの黒の丸型(ハンマーナット)が良く見えます。
ご主人は、「掛け軸やお花の説明と共に、このDボルトの説明もお客様にしますね。」と、私のDボルト秘話を、熱心に聴いてくださいました。
ちなみに床柱は、奈良市の梅田工務店まで、ご主人と一緒に行き、買い求めたコブシです。
実は、この茶室の北側も全て襖のつづき部屋。こちらは水屋など置いて、主にもてなす側の空間になるようです。
茶室からリビングダイニングを通して、奥さまの寝室まで見通せます。あえて開口部を広く取ってほしいということで、個室さえも、つづき部屋感覚です。写真左手奥がキッチンになります。
脱衣室から浴室を見ます。
定番のハーフユニットバス(TOTO)にH600mmタイルを貼れば、壁板のサワラもカビの心配はありません。もちろん換気をしっかりお願いしています。天井は勾配天井。これも鉄則です。
平屋のこの家には2畳半のロフトがあります。初めて搭載した「そよ換気」も見えます。写真左手には頂側窓を設けて、通風の工夫もしました。
「何よりも夏の暑さ対策をお願いしたい。」との希望でしたが、夏・冬とも、この、そよ換気がどのような効果を与えてくれるのか。それが楽しみです。
奇をてらうのではなく、「何しろシンプルな家を。」というのが奥さまの口癖でした。
ここ奥さまのお部屋の窓際からみた景色。「素地の家」を言い表した空間になっていると思うのです。
MSD三澤文子
設計:三澤文子(MSD)担当/佐治あゆみ(MSD)
構造:河本和義・田畑勝(TE-DOK)
施工:コアー建築工房 大工/渡利道夫・監督/貝渕宏典
構造材:伸栄木材/中谷好伸
延床面積:77.48㎡(23.43坪)
工期:2015年10月~2016年3月
主な性能
長期優良住宅
構造性能/耐震性能等級2
温熱性能/断熱等性能等級4
UA値(外皮平均熱貫流率)=0.55W/㎡K、ηA値(冷房期の平均日射熱取得率)=1.9