Msウェブサイトはコロナ禍、大々的にリニューアルされましたが、当時私が、激務の最中であったため、掲載作品は最近の仕事を中心に少量にとどまっています。そこで私、三澤文子が担当する回は、「蔵出し!自慢の住宅作品」と題して、Ms日記にてMsのウェブサイトに未掲載の作品を皆様にご紹介させて頂きたいと思います。

岡山県の蒜山高原に建つケナル山荘は、依頼主のご夫妻と、敷地の比較的近くに住まわれている妻のご両親も利用できる別荘です。夏の涼しさを求めて、この高原で過ごすことが目的の一つでした。
北にある道路から北棟を見えています。 RC造の壁に土を厚く塗って作った土塀が印象的に映るように意識しました。土塀の中に門扉が引き込まれ、門扉の姿が見えなくなるように工夫しています。
この山荘は、縁あって香川県在住の彫刻家 吉田正彦さん(故人)に外構計画をお願することができました。それもあってケナル山荘の名付け親は吉田さん、そして表札の字も吉田さんが書きました。ケナルはこのあたりの地名です。

敷地に入り、北棟に入る手前に見える石彫は、吉田正彦さん作。これは灯りにもなっているので、夜の写真をご紹介したかった。アプローチの床はリユースの枕木です。

北棟はゲートになっていて、沖ノ島産の松材の小屋梁で屋根を支えています。
北棟の写真右手(西側)にはご両親の滞在スペース、左手(東側)は大型犬2頭のためのスペースになっています。
床は島根県産材の凝灰岩である福光石です。

中庭を、建物がコの字型に囲みます。右手は北棟、正面は浴室棟で、浴室、洗面室、ユーティリティーがあります。そして写真左手がこの別荘の主要空間がある南棟です。
中庭は岡山県の御影石である万成石をオーバル型に敷き並べ、中心にたき火のための炉をつくっています。お客様が来られたときには焚き火をする楽しさを分かち合いたいというのが依頼主のご希望でした。

この中庭の見返し、東の景色を見ています。何も手を入れていない敷地内の樹木や隣地の奥行きのある森が素晴らしく美しい。
中庭の土間の向こうは階段があり、下がって右手に回り込むと南の広い庭につながります。

南棟は、広い土間リビングと畳の居間空間があり、その空間を見通して南の庭が目に入ってきます。
土間は福光石敷きで、小屋組は沖ノ島産の松梁。そのほかの梁桁は徳島の木頭杉、そして柱材は吉野杉です。このケナル山荘で初めて吉野の阪口製材さんの杉材を使わせていただきました。もちろん沖ノ島の松材も初めてのこと。この木材調達のために三澤康彦さんと沖ノ島の製材所を訪ねたことが思い出されます。

南庭から南棟の姿をみています。
屋根にガラスが載っているのは、この建物がOMソーラシステム(以下OM)を搭載しているからです。別荘で特に湿気の多いこの地域、OMで年中換気できるため常に快適な室内環境を保つことができます。依頼主がご希望し、その後Msでは「別荘建築にはOMがセット」という認識となりました。
南棟は東西13間 南北3.5間の切り妻の架構です。6間の開口部が見えるのは土間リビングと畳の居間の開口部、写真右手奥が和室の寝室になっています。

南棟は中庭からは段差無く入ることができますが、南庭とは1mほどの段差があり、枕木の階段で基壇のように高くなっています。ただ、南庭にかなりの広さ奥行きがあることで、この高さがちょうど良い心地になったと思います。

寝室の濡れ縁から南庭を見ています。
中央にある大きな石。これは吉田正彦さんと、依頼主のご夫妻とで岡山の万成石を見にいった時に見つけた大きな石で、それを見た依頼主が「お弁当を持って犬とピクニックに行ったときに、犬が上がれない大きな石の上にお弁当を置いたことがあった。その大きな石とそっくりだ。」ということで、「おべんとう石」と名付けられて、この庭にやってきました。

南棟の寝室は畳廊下に囲まれた和室です。
アイストップには、どこも窓の向こうの樹木が見える本当に豊かな敷地に恵まれました。

浴室棟の前につくられた渡り廊下。夏の別荘が主目的だったので、全て建具がしまい込まれる形になっています。
渡り廊下の床板は松板。これは徳島木頭村の和田善行さんの杉の山に一本だけ孤独に育った松の木で、樹木だったときから馴染みのあるその木を伐採してもらい、床板にしてもらいました。

最後は浴室です。
福光石の床で壁と天井は桧の板。浴槽も桧材です。
広めの別荘ですが、材料の主役は木と石です。
石は吉田正彦さんが調達の責任者、そして木はMsの役目でした。ベースは徳島の和田善行さんの杉材、そして阪口製材の吉野杉、そして沖ノ島の松材。
素材それぞれが存在感を示して、人の住む空間ができました。これからも自然の恩恵に感謝して、自然の恵みである材料を使って住まいを創っていきたいと思います。
(三澤文子)



